サイト売買コラム
- 売り手目線
ケアと絆のバトン:シニア向けECサイト譲渡の体験
2024.12.19
取材協力者:今田裕子さん(サイト売却者)
私は65歳の元看護師です。 長い間、医療の現場で人々の健康と向き合ってきました。諸事情で早期退職後、私が新たに始めたのは、シニア向けの健康グッズを取り扱う通販サイト”ケアライフサポート” の運営でした。
きっかけは、両親の介護生活でした。母の手が弱くなり、食器をうまく持てず困っていた時、滑りにくい食器を探し回った日々が忘れられません。父は膝が痛く、普通の靴では脱ぎ履きが難しく、何度もため息をついていました。「こんな時、もっと手軽に頼れるものがあれば……」と、何度も思いました。
その思いが私を突き動かし、”ケアライフサポート” を立ち上げたのです。
Contents
サイトへの思い入れと成長の喜び
2016年に “ケアライフサポート” を立ち上げた時、正直なところ、右も左もわかりませんでした。ネットショップの運営なんて初めてで、パソコン操作にも自信がなかったのです。でも、看護師としての経験が私を支えました。
シニア世代に本当に必要な商品を厳選しようと、滑りにくい食器、履きやすい靴、軽量で簡単に使える電動マッサージ器など、私自身が納得できるものだけを取り扱いました。どの商品も、母や父、そして自分自身で使い心地を確かめました。
ブログも欠かさず書きました。健康維持のためのちょっとしたアドバイスや、商品の使い方を丁寧に説明しました。最初は誰も読んでくれないんじゃないかと不安でしたが、少しずつコメントが届くようになったのです。
「お母さんに使ってもらったら、とても喜んでいました。」
「こんな商品を探していました!ありがとうございます。」
この言葉に、何度救われたことでしょう。画面越しに喜んでくれる人たちがいる。その喜びが、私を支え、サイトを成長させてくれました。
サイトの売上は少しずつ伸び、訪問者数も増えていきました。お客様からの温かい声が励みとなり、サイト運営が私の生きがいになっていきました。
衰えを感じたある日
でも、時間は待ってくれません。60歳を迎えた頃から、私は体力の衰えを感じるようになりました。
商品を梱包して発送する作業や、在庫を管理する仕事が、以前よりも辛くなってきたのです。腰に痛みを感じ、手首にも違和感がありました。
夜中にブログを書こうとしても、目が疲れてしまい、集中力が続きません。新しい商品を選ぶにも時間がかかり、やりたいことが溜まっていくばかりでした。
「このままじゃ、サイトが止まってしまう……。」
そんな不安が募りました。
だからといって、サイトを閉じることは考えられませんでした。これまで多くの人が頼りにしてくれた “ケアライフサポート”。私がいなくなっても、このサイトが続いていけば、きっと誰かの役に立ち続ける。
「このサイトを、大切にしてくれる人に託そう。」
そう決意しました。
M&A専門家・和家さんとの出会い
サイトを譲渡したいと思ったものの、どこから始めればいいのか見当がつきませんでした。そんな中、インターネットで “サイト売却” と検索し、偶然見つけたのがサイトレードのM&A専門家の和家さんでした。連絡する前は不安でいっぱいでした。「素人の私が相談しても大丈夫かしら」と躊躇しつつも、勇気を出して問い合わせをしました。
すぐに返事があり、和家さんは電話での無料相談を提案してくれました。初めての電話では、私の緊張を察してか、優しく穏やかな声で話しかけてくれました。
「今田さん、誰でも売却は初めてです。大丈夫ですので、ゆっくりお話を聞かせてください。」
サイト立ち上げの経緯や、両親への思い、シニア向けの商品を届けたいという願いを話すうちに、涙がこぼれそうになりました。和家さんは一つ一つ丁寧に聞き、「その思いを大切にした譲渡先を必ず見つけます」と力強く言ってくれました。
「このサイトは今田さんの人生そのものですね。しっかり価値を評価して、次につながる良い形を探しましょう。」
和家さんは、サイトの現状や今後の可能性を冷静に分析し、私の気持ちを尊重しながら進め方を提案してくれました。それまでの不安が少しずつ消え、「この人にお願いすれば大丈夫」と思えた瞬間でした。
和家さんとの出会いが、私に新たな道を示してくれたのです。
スマイルケアとの出会い
スマイルケアの担当者、吉野健一さんとの初めての面談は緊張しました。オンラインで画面越しに対面した彼は、落ち着いた口調で、シニア向け商品の市場に対する熱意を語ってくれました。
「今田さん、私たちはシニア世代の生活をもっと快適にしたいと考えています。『ケアライフサポート』の取り扱う商品やお客様との信頼関係に、私たちはとても感銘を受けました。」
吉野さんは続けて、サイトをどのように発展させたいかを具体的に話してくれました。オンラインマーケティングを強化し、サイトデザインを改善し、もっと多くのシニア世代に商品を届けたいと。
「今田さんの大切なサイトを、私たちに託していただけませんか? 必ず、あなたの思いを引き継ぎます。」
その言葉を聞いた瞬間、私の中の迷いは消えました。画面越しの吉野さんの真摯な眼差しに、心から安心しました。
「吉野さん、どうぞよろしくお願いします。」
スマイルケアとの出会いは、私に新たな希望を与えてくれました。これまで築き上げた “ケアライフサポート” が、彼らの手によってさらに成長し、多くの人に喜ばれる未来が見えたのです。
譲渡の決断と未来
譲渡交渉が進み、最終的な契約がまとまったとき、心の中にはさまざまな感情が渦巻きました。契約書に署名をする手が少し震えましたが、それは不安ではなく、これまでの努力が報われたという実感からでした。和家さんが横にいて、「大丈夫です、今田さん」と静かに声をかけてくれたことで、安心してペンを走らせることができました。
譲渡が完了した瞬間、私の中には安堵と寂しさが広がりました。でも、これで “ケアライフサポート” は新しい未来へと歩み始めるのです。スマイルケアなら、きっと私の思いを引き継いでくれると信じていました。
後日、スマイルケアから新しくリニューアルされたサイトの報告が届きました。デザインが少し変わり、商品カテゴリも増えていましたが、”ケアライフサポート” の名前はそのままでした。ブログも引き継がれ、私が書いた過去の記事が今も掲載されています。新しい記事には、私が提案した商品や新しい健康グッズが紹介されており、読者からの温かいコメントが増えているのを見て、胸がいっぱいになりました。
「私が始めたこの小さなサイトが、こんなにも多くの人に喜ばれている……。」
その日、久しぶりに心から安堵しました。譲渡は終わりではなく、新しいスタートなのだと実感した瞬間でした。
これからサイトを売りたい人へ
もし、あなたがサイトの譲渡を考えているなら、私が伝えたいことがあります。
「サイトは自分の分身です。だからこそ、譲渡は慎重に、信頼できる相手を見つけてください。専門家の力を借りれば、きっと安心して次のステップに進めます。」
譲渡は終わりではなく、新しい始まりです。
あなたが大切に育てたサイトが、未来へと引き継がれること。それは、きっと素晴らしいことだと、私は思います。
M&A担当の和家からの見た譲渡に込めた想い
今田さんの「ケアライフサポート」の譲渡を通じて感じたのは、事業譲渡が単なる経済的取引ではなく、想いと信念を次世代へつなぐ行為だということです。今田さんがご両親への思いから始めたこのサイトは、シニア世代やその家族に寄り添い、日々の生活に小さな安心を提供していました。
この取引で最も大切にしたのは、今田さんが積み上げた信頼と理念を壊さないことでした。買い手であるスマイルケアが、今田さんの価値観を理解し、サイトを成長させるビジョンを持っていたことは幸運でした。
契約締結の日、今田さんが署名する手の震えに、彼女の覚悟とサイトへの深い愛情を感じました。「大丈夫です」と伝えた言葉は、私自身への決意でもありました。この取引が、今田さんの思いを未来へ引き継ぎ、多くの人々の役に立つことを心から願っています。
執筆者: M&Aアドバイザー 和家 智也(わけ ともや)
株式会社ゼスタス 代表取締役/早稲田M&Aパートナーズ株式会社 代表取締役
一般社団法人日本サイトM&A協会 代表理事
筑波大学第三学群基礎工学類卒業。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修士課程修了(MBA)。2006年、サイトM&A専門仲介事業『サイトレード』を立ち上げる。2017年、第11回M&Aフォーラム賞 選考委員会特別賞を受賞。著書『M&Aエグジットで連続起業家(シリアルアントレプレナー)になる』