サイト売買コラム

  • 買い手目線

ふるさと納税ポータルを買収した私たちの挑戦

取材協力者:川村隼人さん(サイト購入者)

「この地域の資産はもっと活かせるはずだ」

そう感じたのは、ある地方自治体の担当者と話していたときのことでした。

「ふるさと納税の返礼品、地元の良さはあるのにPRが弱くて寄附数が伸びなくて……」という言葉に、私は思わず身を乗り出していました。

私は、地方自治体向けにWebサイト制作や業務DX支援を行うIT企業で、公共事業部の責任者を務めています。官民連携による地域創生に注力する中で、現場で繰り返し感じていたのは、「良いものがあるのに、それが必要な人に届いていない」というもどかしさでした。

当社でもふるさと納税関連の事業開発を進めていましたが、ゼロから立ち上げるには時間もコストも膨大です。実績や信頼の蓄積には年単位の覚悟が要ります。そんな折にサイト売買案件として出会ったのが、ある地域に根づいた、温もりのあるふるさと納税紹介サイトでした。

丁寧に構築された導線、住民や自治体との関係性、真摯な情報発信。小さな画面の奥に、地域と向き合い続けた日々がにじんでいました。「この仕組みを購入という形で引き継げたら、どれだけ早く地域貢献につながるだろうか」と自然に思いました。時間では買えない“信頼”が、そこには確かに宿っていたのです。

小さくても、意味のある仕組みを求めて

求めていたのは、巨大ポータルでも派手な展開でもありませんでした。
地道に地域と向き合い、丁寧に育まれてきた“信頼そのもの”──自治体と住民との接点を引き継げる資産でした。

とはいえ、私たちにはM&Aの経験がなく、「本当にこのサイトを買えるのか」「信頼関係まで引き継げるのか」と不安が先に立ちました。社内でも意見が割れ、私はその舵取り役として、内心プレッシャーを感じていたのを覚えています。

それでも、「この一歩が、地域とつながる確かな道になる」と信じ、思い切ってサイトレードに相談の問い合わせました。数日後、担当の和家さんとの面談が実現。想いのこもった紹介サイトと、誠実な仲介者との出会いが、「なんとしてでも想いを実現させたい」という強烈な気持ちを私たちにくれたのです。

“ただの取引”ではない-サイトレードで見えた本質

契約に向けた準備は、私たちにとって学びの連続でした。SEO構造や流入経路、CMSや記事作成フロー、返礼品の更新体制、地域事業者とのやり取りまで──和家さんの伴走のもと、細部まで丁寧に情報共有が進みました。

この過程で私の中に芽生えたのは、「これは単なるWebサイトではなく、地域との信頼で成り立つ“仕組み”そのものなのだ」という感覚でした。
自分たちがこれから動かしていく事業の“骨格”を、ひとつずつ紐解いていくような手応えがありました。その積み重ねが、安心と責任の両方を私たちにもたらしていたように思います。

そして迎えた売主・高野さんとの初対面。Zoom越しに語られたエピソードは、数字や仕様書では見えてこなかった「想いの部分」を色濃く映し出していました。

「自治体にも最初は見向きされなかったんです」
「でもコツコツ取材して、地元の人と一緒にここまで育ててきました」

静かな語り口の中に宿る情熱に触れ、「このサイトは、もっと多くの人に届けなければ」と心が動きました。
私たちは“サイト”ではなく、“時間と信頼の積み重ね”を引き継がせていただいたのだと、今は強く感じています。それは確かな実感として胸に残っています。

仕組みごと引き継ぐという覚悟─売主との対話を経て

移管作業は、たった2週間で完了しました。高野さんが丁寧に整理してくださっていたおかげで、大きなトラブルもなく進めることができました。
「使いやすくしてくれて嬉しいです」と後日届いたメッセージに、胸がじんとしました。あの瞬間、「想いごと託されたんだ」と実感しました。

引き継ぎが終わるや否や、私たちは改善フェーズへ。CMSの最適化、画像や動画の圧縮、Core Web Vitals対応、導線の再設計。加えて、返礼品事業者へのインタビュー記事も追加し、商品の背景を伝える工夫を重ねました。

見た目は大きく変えずとも、サイトは静かに生まれ変わり始めました。表示速度は40%向上、PVは2ヶ月で1.8倍に、寄附CVも1.6倍に成長。さらに2自治体との連携も決まりました。

目の前の数字だけでなく、「信頼を土台に育てる」という手応えが、少しずつ確信に変わっていったのです。この事業買収が、間違いではなかったと今ははっきり言えます。

引き継いだ先に見えた、新しい可能性

今回の買収で、私が最も驚かされたのは、規模では測れない“仕組みの本質的な価値”でした。大手メディアのような派手さはなくても、地域に根差し、顔の見える関係性で築かれたこのサイトは、企業にとって何より強い営業資産になり得ると、現場で実感しています。

実際にこのサイトを通じて、私たちは自治体との信頼関係を一気に構築することができました。単に情報を引き継いだのではなく、「信頼の連鎖」を受け継がせてもらえた、そんな感覚です。

同時に、Web制作やDX支援だけでは見えてこなかった“地域の物語”にも、私たちは今、正面から関わっています。このサイトは、私たちに新しい役割を与えてくれました。

そして何より印象に残っているのは、高野さんが最後にかけてくれた「引き継いでくれてありがとう」というひと言です。
あの瞬間、自分たちの仕事が誰かの安心や希望に変わったのだと、深く胸に刻まれました。数字では表せない報酬が、そこには確かにあったのです。

数字には表れない、一番の報酬

今回の買収は、単なる事業拡大ではありませんでした。
それは「誰かが積み上げてきた信頼の仕組みを、未来へつなぐ挑戦」だったと今は感じています。

売主の高野さんは、「もう自分では育てきれない」と話してくれました。その気持ちは、私たちにもよくわかります。
けれど、誰かが想いごと引き継げば、その仕組みはまた息を吹き返し、さらに広がっていくのです。

特に自治体との関係構築では、“この人になら任せられる”という信頼がすべて。買収によって、その下地が一気に受け継がれたことが、最大の価値でした。

そして何より印象に残っているのは、高野さんからいただいた「引き継いでくれてありがとう」というひと言。
その言葉に、自分たちの取り組みが誰かの安心につながったことを確かに感じました。

売却は“終わり”ではありません。それは、信頼と物語を未来に送り出す“共創”のはじまりなのだと、私は今、強く実感しています。

M&A担当・和家から見た譲渡に込めた想い

今回の譲渡には、数字では測れない価値が宿っていました。

ふるさと納税ポータルという“かたち”の裏にあったのは、地域の事業者や自治体との信頼の積み重ね。そして、地元を想う売主・高野さんの静かな情熱でした。

川村さんは、そうした“目に見えない価値”をきちんと受け止めてくださった買い手です。サイトを育て直し、地域との関係を広げる姿に、私は「引き継ぐことの意義」を改めて感じました。

M&Aというと、数字や条件の世界を想像されがちですが、実際には「人と人との信頼」がすべてです。お金では測れない価値を、未来へとつなげる手段──それが事業売買の本質だと思います。

どんなに小さな仕組みでも、それを必要としている人がいる。そして、そこに想いと覚悟を持った買い手が現れたとき、“継承”は“進化”へと変わります。

私はこれからも、「終わり」ではなく「新しい役割を与えるM&A」に寄り添っていきたい。これは、私自身にとっても、M&Aの意義を深く再確認させてくれた案件でした。

執筆著者 和家智也(わけともや)

執筆者: M&Aアドバイザー 和家 智也(わけ ともや)
株式会社ゼスタス 代表取締役/早稲田M&Aパートナーズ株式会社 代表取締役
一般社団法人日本サイトM&A協会 代表理事

筑波大学第三学群基礎工学類卒業。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修士課程修了(MBA)。2006年、サイトM&A専門仲介事業『サイトレード』を立ち上げる。2017年、第11回M&Aフォーラム賞 選考委員会特別賞を受賞。著書『M&Aエグジットで連続起業家(シリアルアントレプレナー)になる