サイト売買コラム
- 売り手目線
歯科医院向けMEO支援サイトを売却
2025.07.19
取材協力者:川崎直哉さん(サイト売却者)
「この仕組み、自分だけで抱えていて良いのだろうか」
そんな問いが、ふと頭をよぎったのは、忙しさに押しつぶされそうだったある金曜日の夜でした。
私は地方都市を拠点に、Web制作やSEO対策を請け負うフリーランスとして活動してきました。この数年で最も手応えを感じたのが、歯科医院に特化したMEO(マップエンジン最適化)支援です。
Googleマップでの検索順位を上げることで新規患者の来院につなげる仕組みは、特に地方の歯科医院にとって、いわば“デジタルの看板”のような存在でした。もともとはWeb制作案件の中で行っていた業務でしたが、相談件数の増加に伴い、私はこの支援を独立事業として切り出し、「歯科医院向けMEO支援サイト」を立ち上げました。
Contents
信頼を積み上げる一方、見え始めた“限界”

事業化してからは、ひとつひとつ実績を積み重ねながら契約件数を伸ばしていきました。導入した医院から成果が出れば、その評判が別の医院へとつながっていきました。マニュアルや報告フォーマットも整え、業務の型はできあがっていました。
最終的には、30院以上との月額契約を獲得。医院ごとにカスタマイズした投稿内容、定期分析、レビュー対応など、継続性のある運用フローを確立しました。
しかし、同時に「このまま一人で抱え続けることの限界」も感じていました。
まず、既存クライアント対応が増える一方で、新規営業に割ける時間は激減。他業種への展開も視野に入れ、良い仕組みを広げたいのに、それを提案する時間が取れないジレンマに陥っていました。
次に、人員不足。歯科以外にも展開可能なノウハウがあると分かっていても、開拓する余裕はありませんでした。
そして価格設定の悩み。「個人」という立場だけで価格交渉が不利になるケースも多く、本来の提供価値を伝えきれないもどかしさが続いていました。
日々の業務に追われながら、「このまま縮こまっていくのか」「でも誰かに渡すのも不安だ」そんな葛藤が積み重なり、ある日、ふと検索したのが「事業売却」でした。
サイトレードとの出会いで、“不安”が“選択肢”へ変わった

事業売却といっても、何から始めたらよいのかわかりませんでした。
「事業譲渡って、そもそも個人でもできるのだろうか」
そんな素朴な疑問から、インターネットで情報を探していたときに出会ったのがサイトレードでした。売却体験談のページを読み進めるうちに「小規模でも実現できる」という可能性が見えてきました。
すぐに無料相談フォームから問い合わせを送り、オンラインでの初回面談では、こちらの想いや状況を丁寧に聞いてくださり、無理に進めようとすることもなく、安心して相談できました。
「これは川崎さんの中で、すでに再現性のある“仕組み”として確立しています。
拡張性も高いですし、引き継ぎを前提にお話を進めていけると思います」そんな和家さんの言葉に、私は肩の力が抜けたような気がしました。
和家さんは私の言葉を言語化し、資料に落とし込んでくれました。
特にありがたかったのは、以下の点です。
- サービスの強みや市場価値の再言語化
- クライアント継続率・実績の数値化と資料化
- 売却価格のロジック設計(月商×12ヶ月+変動報酬)
- 契約・引き継ぎに関わる法務的な配慮とテンプレートの提供
- 買い手が安心して検討できるよう、説明資料の組み立て
「どこが評価されるのか」「買い手にどう伝えればいいのか」
このあたりを自分だけで考えるのは難しかったと思いますが、和家さんの伴走があったからこそ、確信を持って資料を整えることができました。
売却決定と、その後に広がった可能性

最終的にマッチングしたのは、歯科領域に実績を持つ広告代理店でした。
担当の杉山さんは、商談の冒頭でこう話してくださいました。「実は弊社でも、MEOについての問い合わせは多く来ていました。でも、それに対応できる仕組みがなかったんです。
ここまで丁寧に設計されているものなら、すぐに事業として活かせると感じました」
杉山さんは、単に“機能”だけでなく、“クライアントとの関係性”ごと丁寧に引き継ごうとしてくださっている姿勢が印象的でした。
その時点で、「この方々なら、自分よりももっと広く、深く届けてくれる」と確信が持てました。
売却は、月商の12ヶ月分+成果に応じた変動報酬という形でまとまり、私は1ヶ月間の引き継ぎサポート+アドバイザー契約という形で関与しました。
この引き継ぎも、想像以上に大変でした。
医院への移行案内、FAQの作成、マニュアル整備など、私にとっては“空気のように当たり前だったこと”を言語化して共有するという作業は、簡単ではありませんでした。
けれど、買い手企業も本気で向き合ってくれたからこそ、安心して運営を引き継ぐことができたと感じています。
売却から数ヶ月が経った今、買収企業では以下のような成果が出ていると伺っています。
- クライアント数:約3ヶ月で2倍に拡大
- 新たにSNS運用と組み合わせたパッケージ商品として再設計
- LPや導線設計の改修でCVR(成約率)も向上
- 平均契約単価が向上し、収益性も改善
私自身が限界を感じていた部分が、リソースを持つ企業によって解消され、さらに成果を上げている――それは、何よりも嬉しい報告でした。
売却は“手放す”ことじゃない。“次に託す”こと

MEO支援サイトをゼロから立ち上げ、成長させ、譲渡した──この一連の経験を通じて、私が感じたのは、「売却=終わり」ではないということでした。
むしろ、“次の誰かが走らせてくれる”からこそ、仕組みが生き続ける。
私は、走り続けるために一度立ち止まり、別の道を進むことができた。今は心にも時間にも余白ができ、新たなチャレンジにも取り組めています。
これを読んでいる方の中に、「手放すのが怖い」と感じている方がいるなら、まずは“相談”という小さな一歩から始めてみてください。小さな仕組みでも、価値があれば、きっと誰かが必要としてくれます。
小さな仕組みでも、きちんと価値があれば、必ず必要としてくれる人がいます。そして、その価値をわかってくれる買い手と出会えれば、自分では見られなかった景色を見ることもできる。
これから事業売却を検討されている方に、私は声を大にして伝えたいです。
「売却=失う」ではありません。
「売却=次に進むチャンス」です。
そして、誰かに“志”を引き継いでもらうという選択肢が、もっと多くの人にとって自然なものになっていけばいいなと、心から願っています。
M&A担当・和家から見た「譲渡に込めた想い」
川崎さんの事業は、構築された仕組みと高い継続率、そして地域密着という軸がしっかりと存在していました。小さな規模であっても、再現性が高く、価値が伝わる事業は確実に評価されます。
川崎さんは個人でここまでの仕組みを構築された努力家でありながら、「自分ではここまで」と冷静に線を引き、託すという選択をされました。その誠実さと覚悟が、買い手にとっても大きな安心材料になったと感じています。
事業譲渡というと、資金面やスケールばかりが語られがちですが、本質は「価値と想いの継承」です。
仕組みが引き継がれ、さらに加速していく。そんな温かく、前向きなバトンタッチが、これからも増えていくことを願っています。

執筆者: M&Aアドバイザー 和家 智也(わけ ともや)
株式会社ゼスタス 代表取締役/早稲田M&Aパートナーズ株式会社 代表取締役
一般社団法人日本サイトM&A協会 代表理事
筑波大学第三学群基礎工学類卒業。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修士課程修了(MBA)。2006年、サイトM&A専門仲介事業『サイトレード』を立ち上げる。2017年、第11回M&Aフォーラム賞 選考委員会特別賞を受賞。著書『M&Aエグジットで連続起業家(シリアルアントレプレナー)になる』