サイト売買コラム

  • 買い手目線

スキンケアECサイトを買収し、DtoCブランドを育てた事業M&A成功事例~

取材協力者:菊地祐輔さん(サイト購入者)

私は、製薬系OEM事業を手がける中小企業の役員です。2023年、当社では新たな収益事業として「スキンケア分野におけるDtoCブランドを立ち上げる」プロジェクトが本格的に始動しました。

きっかけは、「OEMでは見えづらいユーザーの感情や反応に、もっと近づきたい」という社内の声が発端でした。

しかし、実際に市場調査を進めると、D to Cブランド立ち上げには「信頼構築の大きな壁」があると実感しました。

ゼロからのブランド構築が抱える時間的リスク

製品開発や品質には自信がありましたが、D to Cに不可欠な以下の要素に関しては明らかに経験不足でした。

  • SNSやSEOを活用した集客動線の設計
  • 定期購入を前提としたリテンション戦略
  • ブランドとしての世界観と共感の構築

これらを一から立ち上げるには数年から数十年単位の時間と多大なリソースがかかると判断。

そこで私たちは、既に一定のファンを獲得しているスキンケアECブランドを買収するというM&A戦略に舵を切ったのです。

サイトレードで出会った1つのブランド

D to Cブランドの買収を本格的に検討し始めた私たちは、まず業界のM&A仲介会社や案件掲載サイトを複数比較しました。

しかし、多くのサービスは上場企業向けや大規模事業に特化しており、「中小のECブランド」にフィットする案件にはなかなか出会えませんでした。

「もっと規模感の近い、ECやWeb領域に強いM&Aプラットフォームはないだろうか?」そう感じていたときに出会ったのが、M&A専門のプラットフォーム『サイトレード』でした。

掲載案件はどれもコンパクトながら、個人や少数精鋭で丁寧に育てられているものばかり。「これは、数字以上にブランドの“想い”を読み取る場だ」と直感しました。

特に目を引いたのが、あるスキンケアECブランドの売却案件。

月商は300万円弱、定期購入率は20-30%。SNSの投稿からも、お客様との自然な対話が垣間見え、レビューには商品への共感や再購入の声が並んでいました。数字以上に、“信頼”を感じさせるブランドでした。

初回面談で伝わった売り手の想い

私たちは早速、サイトレードの問い合わせフォームを通じてアクションを起こしました。その後すぐにコンタクトを取ってくださったのが、M&Aアドバイザーの和家さんです。

第一印象は、驚くほど“営業っぽさ”のない穏やかな語り口。こちらの状況をじっくり聞いたうえで、買収の目的や社内体制まで深くヒアリングしてくれました。

「この案件は、数字以上に“ブランドの熱量”があります。まずは実際に売り手の話を聞いてみませんか?」

そう背中を押され、売り手の中村朋子さんとの初回面談に進みました。

中村さんはWeb制作会社を経営しながら、自身の肌トラブルをきっかけにこのブランドを立ち上げたとのこと。Zoom面談で画面越しに語ってくれた彼女の言葉が、今でも印象に残っています。

「たくさん売ることより、“必要としている人にちゃんと届くこと”を大切にしてきました。」

その一言が胸に刺さりました。これは単なる物販ではなく、“想いを持って育てられたブランド”なのだと確信した瞬間でした。

社内の慎重論と背中を押した言葉

案件内容を社内に共有した際、一部では慎重な声も上がりました。

「自分たちでブランドを立ち上げた方が自由度が高いのでは?」
「買収するにはまだ規模が小さすぎるのでは?」

そうした中で、サイトレードの和家さんがくれたアドバイスが、私たちの視野を広げてくれました。

「数字だけでなく、そのブランドに“惚れられるか”を判断軸にしてもいいと思いますよ。」

その言葉が決定打になりました。ブランドの理念に共感できるかどうか。それは、長期的に事業を育てる上で何より重要な要素でした。

揺れる売り手の想いと丁寧な橋渡し

交渉は大きなトラブルもなく進行しましたが、最後まで印象的だったのは中村さんの葛藤でした。

「もう少し自分でやれるかもしれない。でも、今よりもっと良くしてくれる人に任せることも必要だと思うんです。」

中村さんはブランドを「育てたい」と「手放したくない」の狭間で揺れる気持ちがありました。だからこそ、私たちは「このブランドを大切にし、必ず次のステージへ導く」という覚悟を持って向き合いました。

アドバイザーの和家さんは、化粧品の商品開発、品質管理、譲渡後のオペレーション設計、顧客対応の引き継ぎ、クリエイティブの扱い方まで、すべてを中立かつ丁寧に調整してくれました。

結果として、ブランドの意志と信頼を引き継ぐ、真摯なM&Aが実現したのです。

ブランドを磨き直す「受け継ぎフェーズ」

ブランド譲渡の契約が完了したあと、私たちはいわば“受け継ぎフェーズ”へと突入しました。新たなオーナーとして最初に向き合ったのは、「変えすぎず、でも前に進める」ための絶妙なバランスです。

中村さんが築いてきた世界観や言葉遣い、SNSの距離感、梱包資材に添えられた手書き風メッセージ。一つひとつに込められた“お客様との信頼”を崩さないように、私たちはまず「守るべきものは何か」を全社で洗い出しました。

そのうえで、次の成長に向けて慎重に手を加えていきました。

  • 主力商品の一部をOEMでリニューアルし、原価率を最適化
  • パッケージや同梱物を、世界観を維持しつつブランドストーリーが伝わるデザインに刷新
  • SNS広告やインフルエンサー施策も、元のファン層の感性に沿って丁寧に設計
  • 定期購入プログラムやCRM体制を見直し、LTVを底上げ

こうした一連の取り組みは、まるで“骨董品の修復”に似ていたかもしれません。美しく仕上げるために、余計な手を加えすぎてはいけない。けれど、使い手にとってより価値ある形に昇華する必要がある。

その結果、譲渡からわずか5ヶ月で月商は2倍以上の700万円を突破。定期便率は譲渡時の22%から38%へと大きく改善しました。

それ以上に嬉しかったのは、既存のお客様からの声です。

「いつもと変わらず届いたけど、何だかより使うのが楽しみになった」
「ブランドの雰囲気はそのまま、でも少し進化した感じがする」

という言葉に、私たちは“受け継ぎ”が正しくできたという手応えを得ました。

チームの成長と売り手の言葉

プロジェクトに関わったメンバーの表情も、このM&Aを機に変わりました。

「数字だけでなく、お客様が“どんな気持ちでこの商品を使っているか”を意識するようになった」
「想いを継ぐとは、こういうことなんですね」

そんな言葉が自然とチームから出てきたのです。

後日、中村さんからいただいたLINEメッセージも忘れられません。

「譲渡後にSNSを見ましたが、世界観がそのまま残っていて安心しました。本当に、あの時任せてよかったと思っています。」

事業M&Aで得た本質的な学び

この買収を通じて、私たちが得た最大の学びは、「時間と信頼は買える」ということでした。

ゼロから立ち上げる道もありますが、誰かが育ててきたブランドには“世界観”と“生きた顧客”がいます。そこに価値を見出し、誠実に引き継いでいくことで、信頼と売上を短期間で構築できると実感しました。

この買収を通じて、「事業には人の想いが宿る」とも再確認しました。ただの収益装置ではなく、“原体験”や“信念”が宿る事業を継ぐ責任と誠実さが、買い手には求められるのだと思います。

M&A担当の和家から見た譲渡に込めた想い

この案件では、買い手と売り手、どちらも「数字」だけではなく、双方が「ブランドの未来を第一に考えた」ことが何より印象的でした。

売り手の中村さんは、「次に託すなら、信頼できる人に」と強く願っていました。買い手の菊地さんは、それにしっかり応える姿勢を最初から持っていました。

M&Aという言葉には堅苦しいイメージがありますが、金額や条件だけでなく、“事業に込められた物語”を未来につなぐ行為だと、改めて実感した取引でした。このストーリーが、誰かにとっての一歩の後押しになれば幸いです。

執筆著者 和家智也(わけともや)

執筆者: M&Aアドバイザー 和家 智也(わけ ともや)
株式会社ゼスタス 代表取締役/早稲田M&Aパートナーズ株式会社 代表取締役
一般社団法人日本サイトM&A協会 代表理事

筑波大学第三学群基礎工学類卒業。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修士課程修了(MBA)。2006年、サイトM&A専門仲介事業『サイトレード』を立ち上げる。2017年、第11回M&Aフォーラム賞 選考委員会特別賞を受賞。著書『M&Aエグジットで連続起業家(シリアルアントレプレナー)になる