サイト売買コラム

  • 売り手目線

家庭の味を次世代へ:レシピサイト売却後に広がる新たな挑戦

取材協力者:佐藤めぐみさん(サイト売却者)

趣味から事業へ──レシピブログの成長物語

私が「佐藤家のシンプルレシピ」を始めたのは、ちょうど10年前のことです。当時、私は専業主婦として、子どもたちの健康を考えながら栄養バランスの取れた食事を作るのが日課でした。その中で「誰かの役に立つかもしれない」と思い、手軽で美味しいレシピをブログに投稿し始めたのがすべての始まりでした。最初は趣味の延長線上で気楽に続けていたものの、読者から「このレシピすごく美味しいと家族がとっても喜んでくれました!」といった感謝のメッセージをいただくようになり、少しずつブログへの愛着が深まっていきました。

その後、ブログは口コミで人気を集め、3年前に本格的なレシピ共有サイトとしてリニューアルしました。このリニューアルを機に、月間20万PVを超えるアクセスを集めるようになり、SNSフォロワーも5万人を突破。広告収益も月20万円程度と安定し、「趣味だったブログが、立派な仕事になった」と感じる瞬間が増えました。

一方で、サイト運営が本格化するとともに、私一人では抱えきれないほどの負担も増え始めました。Google検索で上位を維持するためのSEO対策のキーワード分析や、SNSの更新頻度を保つ努力、問い合わせ対応などに時間を費やし、家族との時間が削られる日々。特に最近は、母親の介護が必要となり、運営に充てる時間がさらに限られてしまいました。

「このまま自分一人で無理を続けるのは限界だ」と悩む一方で、「これまで続けてきたサイトを手放すなんて出来ない」とも感じていました。何より、読者の期待に応えられなくなるのが怖かったのです。そんな中、「サイト売買」のサイトを見て、「このサイトを売却し、もっと成長させられる人に託すことは可能だろうか」という思いが少しずつ芽生えました。

しかし、それでも売却には不安がつきまといました。「私が築いてきた温かいコミュニティが壊れてしまうのではないか」「サイトが単なる収益目的の道具にされてしまうのではないか」という懸念が頭をよぎる日々でした。売却は私にとって、【自分の大切な宝物を他人に預けるような感覚】だったのです。

この葛藤を抱えながらも、「サイトをもっと良い形で未来につなげたい」という思いが最終的に私を動かしました。そして、信頼できる専門家の力を借りて、売却という新たな一歩を踏み出す決意を固めたのです。

理念の共有が生んだ理想の買い手との出会い

売却を決意したものの、私が最も心配していたのは「誰にこのサイトを託すのか」ということでした。「佐藤家のシンプルレシピ」は、10年かけて大切に育ててきたものであり、単なる収益の道具として扱われてしまうのではないかという不安が常に頭をよぎっていました。そんな中、M&A専門家の和家さんが紹介してくれた買い手候補の中で、特に心を惹かれたのが健康食品事業を手掛けるさんでした。

堤さんは食品メーカーで長年経験を積み、現在は「ヘルシーライフサポート」という健康食品のコンサルティング事業を運営しています。彼が持つ「健康的な生活を広めたい」という理念は、私がサイトを通じて目指してきたものと共通しており、初めて話を聞いたときから親近感を覚えました。

堤さんとの初めてのオンライン面談で、彼の誠実な人柄と熱意が伝わってきました。堤さんは「佐藤さんのサイトが持つ家庭的な温かさや親しみやすさこそが大きな価値だと思います」と仰っていただき、また「その魅力を大切にしながら、さらに多くの人々に健康的なライフスタイルを提供したい」と具体的なビジョンを語ってくれました。その言葉は、私の中で「この人になら託せる」という安心感が芽生えた瞬間でした。

さらに、堤さんは買収後の計画についても詳細に話してくれました。既存の読者(サイト閲覧者)を尊重しながら、健康食品の新商品開発や読者参加型のレシピコンテスト等のイベントを通じて、サイトをさらに発展させたいという提案は、私の想像を超えるものでした。その具体性と誠実さが、彼がただ利益を追求するのではなく、本当にサイトを大切にしてくれるという確信を持つことができました。

また、彼がSNS運用やSEOに強いチームを持ち、私が抱えていた運営上の課題を引き継ぎ解決できる準備があることも心強い点でした。こうした会話を通じて、私は次第に売却への不安が薄れ、サイトがさらに成長する未来への期待が膨らんでいきました。

堤さんとの出会いを通じて、「売却は終わりではなく、サイトに新たな可能性を与えるための始まりだ」と心から思えるようになりました。この人にサイトを託せるという確信が持てたことが、私にとって最大の安心材料になりました。

引き継ぎを通じた信頼の構築と未来への希望

堤さんが買い手として決まり、いよいよ交渉と譲渡のプロセスが始まりました。初めての売却に不安を抱いていましたが、M&A専門家の和家さんが一つひとつ丁寧にサポートしてくれたことで、安心して進めることができました。

まず、サイトの価値評価からスタートしました。和家さんは、ページビューやコンテンツ、収益、SNSフォロワー数などの数値データに加えて、私が築き上げた「家庭的で温かいコミュニティ」の無形の価値もしっかりと考慮してくださいました。最終的に、譲渡額は想像を超える金額を提示され、私はその金額に納得し、交渉を進めることができました。

次に、契約条件の交渉に移りました。特に、私が不安に感じていた「サイトの理念やコミュニティが守られるか」という点について、和家さんは「既存のレシピを一定期間維持する」「コミュニティの運営方針を大きく変えない」といった条件を契約に盛り込んでくれました。この配慮のおかげで、堤さんにサイトを託す安心感が一層深まりました。

譲渡後の引き継ぎ期間では、レシピ管理やSNS運用のノウハウを堤さんに丁寧に伝えました。堤さんは一つひとつの作業に熱心に取り組み、サイトへの理解と愛着を深めてくれました。その姿勢を見て、「この人ならサイトを大切にしてくれる」と改めて確信しました。

この交渉と譲渡のプロセスを経て、私は売却が終わりではなく、サイトが新たな成長を遂げるための始まりだと実感しました。サイトを大切に思ってくれる堤さんに出会えたこと、そして和家さんの的確なサポートに心から感謝しています。

譲渡後の変化と新たな未来

サイトを譲渡してから数ヶ月、私の生活は一変しました。これまで運営に追われていた時間が解放され、家族との時間を存分に楽しむことができるようになりました。特に母の介護に専念できるようになったことが、私にとって一番の変化でした。

また、これまでやりたくても時間がなくてできなかった地域ボランティアにも参加するようになりました。地元の特産品を使った料理イベントのサポートを通じて、新たな人々とつながりを築くことができています。そして最近、「親子で楽しむ料理教室」をオンラインで立ち上げ、かつての読者からの応援もあり、少しずつ人気が広がっています。

一方で、堤さんのもとでサイトはさらに成長しています。彼がSNS運用を強化し、私のレシピを活用した新商品のプロモーションを進めている姿を見て、「この選択は間違っていなかった!」と実感しました。サイトが新たな形で多くの人々に役立っていることは、私にとっても大きな喜びです。

M&A担当の和家からの見た譲渡に込めた想い

サイト売却は、売り手にとって「終わり」ではなく「次のスタート」です。佐藤さんのように、サイトに強い思い入れがある方ほど、手放すことに対して大きな不安を抱えるものです。しかし、自分の希望や理念を明確にし、それを理解してくれる理想の買い手を見つけることで、その不安は大きな希望に変わります。

今回の取引では、佐藤さんの思いを正確に理解し、それを引き継げる堤さんとの出会いをサポートしました。また、契約内容には佐藤さんの希望をしっかり反映させ、譲渡後も安心してサイトの成長を見守れる環境を整えました。

売却を検討している方には、まず「自分のサイトの未来をどのように託したいのか」を考えることをお勧めします。そして、それを実現するためのプロセスを信頼できる専門家と一緒に進めてください。売却はゴールではなく、新たな未来を切り開く一歩です。佐藤さんのように、売却を通じて新たな可能性を見出す方が増えることを願っています。

執筆著者 和家智也(わけともや)

執筆者: M&Aアドバイザー 和家 智也(わけ ともや)
株式会社ゼスタス 代表取締役/早稲田M&Aパートナーズ株式会社 代表取締役
一般社団法人日本サイトM&A協会 代表理事

筑波大学第三学群基礎工学類卒業。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修士課程修了(MBA)。2006年、サイトM&A専門仲介事業『サイトレード』を立ち上げる。2017年、第11回M&Aフォーラム賞 選考委員会特別賞を受賞。著書『M&Aエグジットで連続起業家(シリアルアントレプレナー)になる