サイト売買コラム
- 買い手目線
英会話プラットフォームの買収で事業拡大!仕組みを引き継ぎ3ヶ月で黒字転換した方法
2025.04.15

取材協力者:坂本ゆかりさん(サイト購入者)
2022年のある日、私は売上データを見て深いため息をついていました。女性起業家として語学学習のスタートアップを立ち上げて1年。Instagramを活用した英語学習のアピールは順調で、リアル講座にも手応えを感じていました。けれど、それだけでは限界がある――ずっとそう感じていたのです。
「私たちを真似する同業も増えてきたし、事業の成長が頭打ちになる」
自社で開発企画を進めていたオンライン英会話のプラットフォームは、想定よりも時間もコストもかかり、立ち上げが見えなくなっていました。教材設計、講師採用、予約システム…。すべてをイチから作るのはあまりにも遠回りに思えたのです。
そんなとき、「既存の英会話プラットフォームを誰か譲ってくれないだろうか」と思いついたのがきっかけでした。調べていくうちに、サイト売買や事業M&Aを扱うサイトレードの存在を知り、半信半疑で問い合わせしました。ネット上での取引に不安はありましたが、それを上回る「期待」がありました。
Contents
M&A担当者との出会いがもたらした新たな可能性

最初に連絡をくださったのが、担当の和家さん。正直、最初は「ネットのM&Aサービスを信頼していいのか?」という不安がありました。でも、和家さんの対応は想像以上に丁寧で、提案も具体的でした。
「予約システムと講師体制が整った英会話プラットフォームの売却案件があります。規模は中程度ですが、すぐにスケールできる余地がありますよ」
そう紹介されたサービスは、Zoomを活用し、すでに月謝制のオンライン英会話レッスンを提供しているプラットフォームでした。初回の資料を見た瞬間、私は思わず前のめりになっていました。講師の質、経歴、カリキュラムの充実度、そして何より既存会員の継続率の高さに、大きな可能性を感じたのです。
「これだ。まさに探していたのは」
不安と期待が交錯した日々
オンライン面談の日。画面越しに現れたオンライン英会話プラットフォームの運営者・岡野さんは、45歳ほどの穏やかな表情の男性でした。英語教育に携わって15年、最初は対面での英会話教室を運営していたものの、デジタル化の波をきっかけに完全オンラインへと転換したとのこと。教材は全て自作で、発音指導に特化したカリキュラムには独自のメソッドが詰まっていました。
「この事業は私の分身のようなものです。でも、新しい教育事業にシフトしたいと考えていて…」と語る岡野さんの目には、惜しみながらも次へ進みたい決意が見えました。彼は運営の細部まで丁寧に説明してくれ、講師陣との関係性や過去のクレーム対応事例、さらには顧客の継続率を上げるために実施してきた施策まで、包み隠さず共有してくれました。特に印象的だったのは、「こプラットフォームの強みは、講師と生徒さんの信頼関係です」と熱を込めて語る姿でした。
ただ、すぐに決断できたわけではありません。
「この事業を本当に自分が引き継げるのか?」「私たちでは荷が重いのではないか?」
そんな不安が何度も頭をよぎりました。けれど、和家さんはその都度、丁寧にサポートしてくれました。契約書のドラフトには弁護士レビューのオプションが付き、必要な資料はすべて共有されました。引き継ぎマニュアルやカリキュラム、顧客管理の運用フローまで整備されていることを知ったとき、「これは単なるウェブサイトではなく、完成された小さな事業だ」と実感しました。
そして数日後、私は買収の決断を下しました。メールで「ぜひこの案件で進めたいです」と送信ボタンを押した瞬間、胸の中で緊張と安堵が同時に押し寄せてきたのを今でも覚えています。
買収後の事業再始動と挑戦

事業買収後の1ヵ月は正直、怖さでいっぱいでした。予約管理システムの引き継ぎ、講師との初コンタクト、初回のZoomレッスン対応。すべてが初めてのことで連日眠れない日々でした。
けれど、引き継ぎマニュアルの通りに運営を進めると、不思議なくらいスムーズに回っていきました。何より、既存の講師や受講者の方々が温かく迎えてくれたのが嬉しかったです。
思い返せば、最初の不安は杞憂でした。岡野さんが構築した仕組みは緻密で、引き継ぎ資料も詳細かつ明確。メインの講師陣も「新しい運営体制でも自分たちのスタイルを大切にしてもらえる」と理解してくれました。実は最初、私はレッスン内容を大幅に変えようと考えていましたが、まずは実績ある形式を尊重することにしたのです。
そして1ヵ月が経った頃、自社のInstagramから初めての受講者が予約を入れてくれました。通知を見た瞬間、思わず声が出るほど嬉しかったのを覚えています。これは単なる新規顧客ではなく、私たちのサイト運営努力の成果の証でもありました。
3ヶ月で売上100万円突破の瞬間
買収時点では月間売上は約70万円、受講者は45名でした。それがInstagram集客との相乗効果で、わずか3ヶ月で100万円を超えました。講師も24名から35名に増え、教材には自社独自のメソッドを加えることができ、事業は次のフェーズに進みました。
この成長の背景には、いくつかの重要な施策がありました。まず、既存のカリキュラムに自社独自の「発音可視化ツール」を組み込んだこと。これにより、受講者の継続率が10%ほど向上しました。次に、Instagramでの発信と連動したプロモーション戦略。無料体験レッスンから有料コースへの転換率が従来の35%から52%にまで上昇したのです。
今振り返ると、最初のあの恐れや不安は、「期待」と表裏一体の感情だったのだと思います。不安があったからこそ、細部まで検討し、慎重に判断できたのかもしれません。
自社だけでは到達できなかった成長スピード。それを実現できたのは、「仕組み」ごと買ったからこそ。ゼロからではなく、実績ある仕組みをベースにして、自分たちらしく磨き上げていけたことが何よりの成功要因でした。
これからM&Aを考える方へ

今回の経験を通して私が得た最大の教訓は、「事業を買うことは、未来を加速させること」だということです。
私たちの場合、自社開発に固執していたら、同等のサービス立ち上げまで少なくともあと1年はかかったでしょう。その間の機会損失を考えると、買収コストは決して高くありませんでした。
もちろん不安はあります。でも、それを超える”確かな一歩”が、仕組みと信用を伴った買収にはあります。
今後、サイト売買を検討している方へ、アドバイスとしては次の3つを贈ります。
- 表面的な数字だけでなく、「継続力のある仕組み」が備わっているかを見ること
- 自社の強みでどう伸ばせるか、具体的にシナリオを描いておくこと
- 譲渡者との信頼関係が築けるかを大切にすること
特に最後の点は重要です。岡野さんとは契約後も定期的に連絡を取り合い、時に相談に乗ってもらうこともあります。この関係があったからこそ、スムーズな引き継ぎが実現したのだと感じています。
M&A担当の和家からの見た譲渡に込めた想い
買い手の坂本さんと初めてお話した時、「ゼロから作ることに限界を感じている」という言葉が印象に残っています。彼女のようなスタートアップ経営者にとって、スピードと成長は命です。そして今回のように、仕組みと信頼がセットになった事業を買うことで、それが一気に手に入ることもあります。
譲渡元の岡野さんにとっても、この取引には大きな意味がありました。彼が進めたい新しい教育事業は、これまでの英会話サービスとは方向性が異なるものです。「事業を終了するのではなく、自分の分身と思える事業を進化させてくれる人に託したい」という想いが強かったようです。
私は経営者同士のこの取引を通して、「事業とは、想いのリレー」であると改めて感じました。数字や仕組みだけでなく、そこに込められた情熱や理念を、次に繋げていくことが私たち事業継承者の役割です。
デジタル化の波が加速する現代、事業承継やM&Aの機会はますます増えていくでしょう。これから事業売買を検討される方へ。この体験が、あなたの一歩を後押しする参考になれば嬉しいです。
執筆者: M&Aアドバイザー 和家 智也(わけ ともや)
株式会社ゼスタス 代表取締役/早稲田M&Aパートナーズ株式会社 代表取締役
一般社団法人日本サイトM&A協会 代表理事
筑波大学第三学群基礎工学類卒業。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修士課程修了(MBA)。2006年、サイトM&A専門仲介事業『サイトレード』を立ち上げる。2017年、第11回M&Aフォーラム賞 選考委員会特別賞を受賞。著書『M&Aエグジットで連続起業家(シリアルアントレプレナー)になる』