サイト売買コラム

  • 売り手目線

キャンプ場集客サイトを譲渡した売買体験談

取材協力者:佐々木航平さん(サイト売却者)

私は地方の山間部で、フリーランスのWeb制作者として活動しています。今回お話しするのは、僕が立ち上げて3年間育ててきた、キャンプ場向けの集客・予約サイトを事業譲渡したときのことです。

譲渡という言葉は、一見「終わり」を連想させるかもしれません。でも実際には、”より多くの人に届けるための一歩”でもありました。

きっかけは小さな違和感だった

そもそもこのサイトを立ち上げたのは、知人のキャンプ場オーナーとの何気ない会話が始まりでした。

「古くなったホームページはあるんだけど予約が電話とFAXだけなんだよね。若い人はネットで予約も何でもしたがるよね」

その一言がずっと頭から離れず、「それならネットでキャンプ場を探せて予約までできる仕組みを自分でつくってみよう」と思ったのが最初でした。

HTMLもCMSもすべて一人で構築し、各キャンプ場の紹介ページやブログ記事を少しずつ作ってはSNSで発信。地元の写真を撮りに行ったり、利用者の声を集めたり。夜遅くまでパソコンに向かってプログラムを改善し、コンテンツを発信する日々でした。

最初は趣味の延長でしたが、少しずつアクセスが増え、問い合わせや予約が入り始めたとき、「これは誰かの役に立っているんだ」と手応えを感じました。

特に、初めて「サイトを見て予約しました」というメールが届いたときの嬉しさは今でも鮮明に覚えています。

サイト開設から3年目の終わりには、月間1万PVを超え、提携キャンプ場も10件、月50件以上の問い合わせがあるサイトに育っていました。正直、想像以上の成長でした。

けれど、あるときから、違和感が芽生えはじめました。

一人で運営する限界

最初は「もっと掲載キャンプ場を増やそう」「特集記事も出そう」とやる気満々でした。けれど、取材、更新、問合せ対応、SNS、システムの保守まで、すべてをひとりで続ける日々が、だんだんと重くなってきたんです。

ある日、メールを返す手が止まっている自分に気がつきました。やらなきゃいけないことは山積みなのに、なぜか気持ちが前に向かない。そんな日が増えていきました。

僕にとって「サイトが回らなくなる」のは、数字ではなく、こうした”気持ちの停滞”だったと思います。

「このままだと、せっかく作った仕組みが止まってしまう」
「でも、これ以上ひとりで続けるのは無理かもしれない」

そんな風に思うようになった頃、ある出来事がありました。

「任せてもいい」と思えた日

2024年の夏、ひどい風邪をこじらせて1週間寝込んだことがありました。熱が下がらず、パソコンの画面を見ることすらできない状態でした。その間に来た問い合わせメールに返事ができず、あるキャンプ場オーナーさんから「最近、更新止まってるけど、何かあった?」と連絡をもらったんです。

その時、胸がギュッと締めつけられるような気持ちになりました。”僕がこのサイトを止めている”――そんな現実を突きつけられたようで。

その夜、布団の中でずっと考えていました。

「この仕組み、本当はもっと活かせる余地がある。でも、自分だけで広げていくのはもう難しいかもしれない」 「もし誰かがこのサイトを必要としてくれるなら、引き継いでもらった方がいいかも」

不思議と、寂しさややるせなさよりも、「このまま自分の中に閉じ込めてしまう方がもったいない」という気持ちの方が勝っていました。

「これまで築いたものは財産になる」と言われて

そこから数日間、ひたすら調べ続けました。「小規模 サイト 売却」「個人運営 M&A」などと検索してたどり着いたのが、サイトレードという事業売買の専門サービスでした。

「こんな小さなサイトに買い手なんているのか」と半信半疑で問い合わせてみると、担当の和家さんという方が丁寧に話を聞いてくれました。

「10施設との接続データがあり、予約の仕組みが実装されていて、しかも継続的なトラフィックがある。これは十分に”仕組みとして完成された”事業です。これまで佐々木さんが一人で築いてきたものは財産になりますよ」

この一言に、救われた気がしました。「売る」という言葉に抱いていたネガティブな印象が、和らいでいったのを覚えています。

整理することで、自分自身も整理された

和家さんと一緒に始めたのは、事業の”見える化”でした。

・アクセスデータの分析と整理
・提携施設ごとの稼働率の可視化
・仕組みのどこが強みで、どこに改善余地があるのか
・提案書の作成、商談に向けたプレゼン準備

この作業は、単なる「売る準備」ではなく、自分がやってきたことを棚卸しするプロセスでもありました。

「これだけ積み重ねてきたものがあるなら、きちんと誰かに使ってもらいたい」そう思えたことが、手放す覚悟にもつながりました。。

引き継がれる“仕組み”としての価値

最終的に譲渡が決まったのは、観光系の事業を展開する企業でした。代表の庄野様とお話ししたとき、「このサイトはユーザー目線作られたものですし、多くのファンがいますよね。うちの新規事業にそのまま使わせてもらいたい」と言ってもらえて、本当に嬉しかったです。

譲渡契約の形式は、一括の譲渡金+成果に応じた追加報酬。譲渡後1年間の成長具合によって、僕にも還元される仕組みです。

これは「買った側が頑張るほど、売った側も嬉しい」という、ある意味で理想的な関係が生まれる方式でした。

契約書にサインをし、ドメインやシステム権限を渡した日の夜。パソコンの前で一人、「ああ、本当に終わったんだな」としみじみ感じていました。でも同時に、どこか静かな清々しさもありました。

譲渡後の成長に感動!

譲渡後は、2ヶ月間の引き継ぎサポートを行いました。各施設への紹介、新運営チームとの連携、管理画面の操作説明…。やれることはすべて伝えました。

それから半年後、久しぶりにサイトを覗いてみると、見違えるほど成長していました。

・提携施設数は10件 → 30件以上に
・月間予約件数は約50件 → 125件以上に
・SNSや口コミでも「使いやすくなった」と好評

新しい運営チームが積極的にマーケティングを展開し、地域のイベントとも連携するなど、僕が一人では思いつかなかった施策も次々と実現されていました。

画面越しに成長したサイトを見ながら、「あのとき、ちゃんと手放してよかった」と思いました。自分のやってきたことが、誰かの手でさらに育てられている。その事実が、心から嬉しかったんです。

“手放す”という選択が、守りたかったものを広げてくれた

今回の譲渡は、僕にとって決して「終わり」ではありませんでした。むしろ、「本当に守りたかったものを広げるための行動」だったと思っています。

自分だけでは広げきれなかった価値を、誰かの手で活かしてもらえる。それを実感した今、自分の役割が終わったことに、どこか誇りのような感覚すらあります。

これからも、新しいアイデアが浮かべば、また誰かのための”仕組み”をつくっていきたい。そして、それが十分に成長したら、また必要とされる場所に届くように整えて、次の人に引き継いでいく。

一つの事業に固執するのではなく、価値を生み出し続けることこそが、本当のやりがいなのかもしれません。そんな働き方があってもいいのだと、今回の経験を通じて思えるようになりました。

M&A担当の和家から見た譲渡に込めた想い

佐々木さんのサイトは、ただの情報掲載サイトではありませんでした。現場の声と使い勝手に真正面から向き合い、丁寧に構築された”地域密着型のしくみ”だったと思います。

私としても、この価値をそのまま活かしてくれる買い手企業を慎重に選びました。結果として、引き継いだ企業も真摯に向き合って事業を拡大してくださっていることが、何より嬉しいです。

M&Aは”終わり”ではありません。次の成長のために、今まで積み上げてきた価値を次のステージへ届ける手段の一つ。私たちはその橋渡しを、これからも丁寧に行っていきたいと考えています。