サイト売買コラム

  • 買い手目線

ビジョンが導いた成功:想いを引き継ぐ教育改革の物語

取材協力者:高垣賢治さん(サイト購入者)

初めてのサイト売買

私は中堅規模のIT企業を経営しています。これまでクラウドサービスを中心に安定した成長を遂げてきましたが、次なる大きな挑戦を模索していました。そこで目にしたのが、オンライン教育事業への参入です。私自身、地方の小さな田舎町で育ち、教育環境が整わない中で勉強してきた過去があります。そのため、「教育格差をなくしたい」という想いが、今回のオンライン教育プラットフォーム買収を検討するきっかけとなりました。

そんな折、ネット上で見かけたオンライン教育プラットフォームの売却案件に目が留まりました。数万人の生徒が登録し、質の高いコンテンツが提供されているそのプラットフォームに、私は一目で魅力を感じました。これが私の「初めてのサイト売買」との出会いでした。このプラットフォームを手に入れることで、自社の技術力と融合させ、教育格差を解消する新たな一歩を踏み出せるのではないかと考えました。

売り手の熱意に触れて

最初に出会ったのは、M&A専門家の和家さんでした。私がオンライン教育事業への参入を決意し、売却案件を探しているとき、和家さんが提案してくれたのが鳴海さんが運営する教育プラットフォームの売却案件でした。和家さんは、単なるビジネスの視点だけでなく、売り手の想いまで大切にし、どの案件が自分のビジョンに最も合致するかを丁寧にアドバイスしてくれました。その時、私は和家さんの深い知識と人柄に強く引かれ、信頼できるアドバイザーだと感じました。

そして、初めて鳴海さんとお会いしました。そのとき彼女は「最初は本当に手探りで、何もわからなかったんです。でも、毎日のように生徒から届く『ありがとう』の言葉が支えとなり、ここまで来ました」と、その目には感謝と誇りがにじんでいました。しかし、彼女の声には苦悩もありました。「運営の負担が大きくなり、新しい教材作りに時間が足りなくて、もっと教育そのものに集中したい」と。そんな中で、彼女は心からの願いを語りました。「私はこのプラットフォームに感謝していますが、家庭環境に変化があり、この事業を託したい。私の想いを引き継いでくれる方にお願いしたいんです」と。

鳴海さんが求めているのは、単に事業を引き継ぐ人ではなく、「教育を本当に大切に思っている人」にその想いを託したいという強い願いでした。和家さんは、その想いを深く理解し、私にこの案件を紹介してくれました。「このプラットフォームを引き継げば、鳴海さんの熱意を形にできる」と感じた私は、全力でこの取引を進める決意を固めました。この取引は単なるビジネス以上のものとなり、私たちは共通のビジョンである「教育を平等に提供する」「教育の質を高め、次世代に役立つプラットフォームを作る」という目標に向けて、一歩を踏み出しました。

M&A交渉の中で見えた未来

交渉の場では、M&A専門家の和家さんの経験にお任せしました。M&A交渉が進む中で、私は鳴海さんとの対話を重ねることで、未来に対する確信を深めていきました。最初はただのビジネス取引として始まった交渉が、次第に「教育を変える」という共通のビジョンを共有する場となっていったのです。

交渉が本格化する中、私たちは単なる事業の譲渡にとどまらず、プラットフォームをどのように進化させ、社会にどんな価値を提供するかを何度も話し合いました。鳴海さんは、「私は教材の品質と、教育の質そのものに命をかけてきました。でも、今の私はその情熱を次の形にする時間がありません。高垣さんの技術力とリソースで、もっと多くの人々に、より良い学びを届けてほしい」と語りました。

その言葉に強く心を動かされ、私の頭の中で未来のビジョンが次々に描かれました。例えば、AIを活用して学習者一人一人に合わせたカスタマイズ学習を提供し、地方の学校や教育機関と連携して、もっと多くの子どもたちに平等な学びの機会を届ける。鳴海さんの作り上げたプラットフォームを基盤に、そんな未来を実現する可能性が見えてきました。

また、鳴海さんの「引き継いだプラットフォームで、私が思い描く次世代の教育を実現してほしい」という熱い言葉が、私の中で強い責任感を生みました。この取引が成功すれば、単なるビジネスの拡大にとどまらず、社会的意義を持ったプロジェクトに育て上げることができる。その確信が、交渉をスムーズに進める大きな原動力となりました。

買収後の新たな挑戦

買収後、私はすぐに鳴海さんが築き上げた教育プラットフォームの拡張に着手しました。最初のステップとして、ユーザー体験の改善に取り組みました。プラットフォームはすでに質の高い教材と多くの生徒を抱えていましたが、私の目指すのはさらに個別化された学習体験の提供です。そのため、AIを駆使して、学習進捗や理解度に応じてカスタマイズされた学習プランを提供するシステムを導入しました。これにより、生徒一人一人のニーズに合った学びが提供できるようになり、学習効率が大幅に向上しました。

次に、地方自治体と連携した無料教育キャンペーンを立ち上げました。特に教育機会が限られている地域の学校に対して、プラットフォームを無償で提供し、どこに住んでいても平等に質の高い教育を受けられる環境を整えました。この取り組みは、地方の教育現場から高く評価され、次第に社会的な注目を集めることとなりました。

また、私は新たなコンテンツ開発にも力を入れました。鳴海さんが手がけた教材を基盤に、さらに多様な学習コースや専門的な内容を追加し、より広範な学習者層に対応できるようにしました。

これらの取り組みが実を結び、プラットフォームは以前よりも多くの学習者に支持され、さらなる成長を遂げました。買収後、私は鳴海さんのビジョンを引き継ぎ、次世代の教育を実現するための礎を築き上げることができたと実感しています。

売却後の鳴海さんについて

買収後、鳴海さんは新たな挑戦に向けて大きく歩み始めました。プラットフォーム運営の重圧から解放され、自身が本当に情熱を注ぎたい教材開発に専念できる時間を手に入れたのです。「これでようやく、自分が思い描いていた未来の教育を形にできる」と語る彼女は、以前にも増して生き生きとしていました。

鳴海さんは特に、教育の本質に迫る新しい教材の制作に力を入れています。「ただ知識を詰め込むのではなく、生徒たちが自ら考え、創造する力を育む教材を作りたい」と話す彼女の姿勢は、教育者としての原点に立ち返るものです。

また、売却で得た資金を活用し、国内外の教育専門家との共同プロジェクトを始動。よりグローバルな視点で教育の可能性を追求しています。「プラットフォームを託したことで、私は新しい形で教育に貢献できる」と微笑む彼女の姿に、迷いはもうありませんでした。

M&A担当の和家からの見た譲渡に込めた想い

今回の売買を振り返ると、双方が持つ明確なビジョンと情熱が取引成功の最大の要因だったと感じます。売り手の鳴海さんは、教育の未来を本気で考え、「質の高い教材を次世代に届ける」という強い使命感をお持ちでした。一方、買い手の高垣さんは、地方の教育格差を埋めたいという明確な目標と、それを実現するための技術力を兼ね備えていました。

高垣さんが示した「教育を平等に提供する」「教育の質を高め、次世代に役立つプラットフォームを作る」というビジョンは、鳴海さんの理念と見事に重なり、交渉はスムーズに進みました。私の役割は、両者のビジョンをつなげ、双方が納得できる条件を整えることでしたが、実際に交渉が進むにつれて、双方の信頼関係が強固になり、結果として双方にとって最良の形での契約が結ばれました。

この取引は、ただのビジネスの売買にとどまらず、社会に貢献できる教育プラットフォームの未来を築くための重要な一歩だと確信しています。両者の想いが合致したこの取引は、今後の教育の可能性を広げるものだと思います。

執筆著者 和家智也(わけともや)

執筆者: M&Aアドバイザー 和家 智也(わけ ともや)
株式会社ゼスタス 代表取締役/早稲田M&Aパートナーズ株式会社 代表取締役
一般社団法人日本サイトM&A協会 代表理事

筑波大学第三学群基礎工学類卒業。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修士課程修了(MBA)。2006年、サイトM&A専門仲介事業『サイトレード』を立ち上げる。2017年、第11回M&Aフォーラム賞 選考委員会特別賞を受賞。著書『M&Aエグジットで連続起業家(シリアルアントレプレナー)になる