サイト売買コラム

  • 買い手目線

地方の味を、全国へ届けるために~冷凍グルメECサイトを譲り受けた、私たちの決断~

取材協力者:山内誠司さん(サイト購入者)

私は地方で食品製造業を営み、地元の味噌や漬物、干物などを長年作ってきました。しかし近年、業務用市場の縮小が続き、売上は年々減少。

「このまま卸売だけに頼っていては会社の未来はない」と強く感じるようになりました。

そんな中で目を向けたのが、個人向け販売(BtoC)です。

冷凍グルメなら、地元の食材を全国に届けることができる。自社の製造ラインを活かし、冷凍惣菜やスープをオンラインで販売する構想を描きました。

しかし、いざゼロからECサイトを立ち上げようとすると、広告費だけで数百万単位。SNS広告やリスティング広告を試算すると、初期投資は予想以上に膨らみました。

加えて、食品分野は「信頼の積み重ね」が何よりも重要です。

いくら魅力的な商品を用意しても、「知らない会社の冷凍食品をいきなり注文する」というお客様は少なく、ブランド認知やリピーター獲得には時間と労力がかかります。

市場が大きく動いている今、時間をかけすぎることは時に致命的になる。

「既存の冷凍グルメEC事業を譲り受けた方が、最短距離ではないか」

そう考えるようになりました。

とはいえ、事業を買うことには最初、抵抗もありました。

他人が育てたビジネスを本当に自分たちが引き継げるのか、自社らしさは出せるのかと悩みました。

それでも、立ち止まる余裕はありませんでした。

私は「リスクを取らないことこそが最大のリスクだ」と思い直し、事業買収を本気で検討し始めたのです。

地方特化の冷凍グルメECに、可能性を見出した

そんな時、目にとまったのが、地方特化型の冷凍グルメECサイトの譲渡案件でした。

全国各地の漁港や農家と直接提携し、地元の鍋セットや惣菜を冷凍で届ける。すでに月間500件以上の発送実績があり、リピーターも多い。購入者は「地域の味を楽しみたい」という固定客が中心でした。

「この仕組みなら、うちの製造ラインと組み合わせて、さらに価値を広げられるかもしれない」

私はそう感じ、譲渡の検討を本格的に始めたのです。

とはいえ、「このサイトを本当に引き継げるのか」という不安もありました。
「運営が変わったら、顧客はどう思うだろう」
「自分たちに、この顧客基盤を守れるのだろうか」

夜中に目が覚めては、事業計画書とにらめっこする日々が続きました。けれど、立ち止まる理由を並べていても未来は変わりません。

私は「リスクを恐れて何もしないことこそが、最大のリスクだ」と自分に言い聞かせ、覚悟を決めました。

サイトレードの和家さんと歩んだM&Aのプロセス

私たちが利用したのは、事業売買の仲介サービス「サイトレード」です。

担当してくださったのは、和家さんでした。最初の面談では、こちらの事情や悩みをとても丁寧に聞いてくださいました。

「不安があるまま無理に進める必要はありません」

その言葉を聞いたとき、張り詰めていた気持ちが少しほぐれたのを覚えています。

さらに、「迷っても大丈夫ですよ」と和家さんは続けました。

一方的に背中を押すのではなく、こちらの歩幅に合わせて並んで歩いてくれる。

そうやって一緒に考えてくれる存在がいることに、救われる思いでした。

こちらの課題や懸念点にも、一つひとつ耳を傾け、誠実に応えてくれたのが印象的でした。

押しつけではなく「一緒に考えてくれる人がいる」と感じられたことが、私の決断を後押ししたのだと思います。

実際の手続きは、和家さんのサポートのもと、段階的に進みました。

まずは案件資料を取り寄せ、売上やリピート率、商品構成を確認しました。「数字上は安定している」と感じたものの、「自社に本当にフィットするのか」という迷いは消えませんでした。机上の数字だけでは判断できないことも多く、葛藤が続きました。

次に、和家さんの仲介で売り手オーナーである佐原直人さんと面談。

「お客様の特徴」「配送フロー」「クレーム対応」など実務面を細かく確認するうちに、単なる物の譲渡ではなく、“信頼関係ごと引き継ぐ”という意識が芽生えました。

その後、意向表明書(LOI)を提出し、価格や条件の交渉に進みました。「本当にこの判断で良いのか」と何度も自問しながらも、最終的には「やるしかない」と覚悟が決まりました。

デューデリジェンスでは、顧客リストやリピート率、仕入れや配送コストまで細かくチェック。和家さんが用意してくれたチェックリストのおかげで、抜け漏れなく進めることができました。

「買って終わりではなく、買って始まる」――そんな気持ちで、徹底的に確認しました。

契約締結後は、佐原さんからCRMや運営マニュアルを引き継ぎました。その際も、既存顧客との関係性を壊さないよう、運営の温度感を大切にしながら、新たなスタートを切る準備を整えました。

半年で得られた成果と変化

買収から半年が経ち、具体的な成果も数字として見えるようになってきました。

  • 月商は300万円から450万円へと、約150%の成長。
    自社製造の冷凍惣菜やスープを新たに加えたことで、客単価が上がりました。
  • リピート率は35%から48%に向上。
    自社のCRMを活用し、定期購入の案内やフォロー体制を強化した結果、顧客との関係性が深まりました。
  • 広告費は、当初想定していたコストの1/3で済んでいます。
    既存の顧客リストやSNSアカウントをそのまま活用できたことで、集客コストは大幅に抑えられました。

数字だけでなく、社内にも良い変化が生まれました。チーム全体が「自分ごと」としてこの事業を捉えるようになり、新しい挑戦に前向きな空気が生まれています。

そして何より嬉しかったのは、お客様から届いた言葉でした。

「新商品も美味しくて、これからも利用したいです」
「運営が変わっても安心して注文できました」

こうした声をいただくたびに、「この決断は間違っていなかった」と心から思います。私たちにとって、このM&Aは“単なる数字の取引”ではなく、“事業の第二章”を一緒に作り始めた時間だったのだと、改めて実感しています。

事業売買で学んだことと、これから挑戦する方へ

今回のM&Aを通じて私が痛感したのは、「事業を買うのは、単なる数字の取引ではない」ということです。

特に冷凍グルメECのようなリピートビジネスは、顧客との信頼関係がすべて。サイトや商品は引き継げても、「運営者の姿勢」や「顧客との距離感」が継承されなければ、その信頼は簡単に崩れてしまいます。

事業は、「仕組み+人間関係+文化」の三つが揃って初めて成り立つ。

今回の経験で、そのことを心から実感しました。もし一人で進めていたら、ここまで深く考えることはできなかったと思います。

和家さんのサポートがあったからこそ、数字だけでなく“事業の温度感”まで引き継ぐことの大切さに気付けました。これから事業買収を考えている方には、ぜひ「数字」と「想い」の両方を大切にしてほしいと思います。

それが、長く続く事業を作る一番の近道だと、私は感じています。

M&Aは「引き継ぎ」ではなく、「未来づくり」。

この視点を持つことが、成功するM&Aの鍵だと私は思います。

M&A担当・和家から見た譲渡に込めた想い

今回の取引は、単なる事業売買ではなく「地域の味と想いの引き継ぎ」でした。

売り手の佐原様は、「自分が手放していいのか」と何度も悩まれていました。
一方で、買い手の山田様も「本当に自分たちが受け継げるのか」と慎重に考えておられました。

双方とも「売る」「買う」ではなく、「次にどうつなげるか」を最優先に考えていたのが印象的でした。

私はM&A担当者として、数字だけでなく「お互いの気持ちをつなぐこと」を大切にしています。

今回は、地域の魅力を次世代に渡す「想いのM&A」だったと感じています。事業は誰かの手で続けられることで、また新たな価値が生まれます。

サイトレードは、これからも「人と事業をつなぐM&A」を実現していきます。

執筆著者 和家智也(わけともや)

執筆者: M&Aアドバイザー 和家 智也(わけ ともや)
株式会社ゼスタス 代表取締役/早稲田M&Aパートナーズ株式会社 代表取締役
一般社団法人日本サイトM&A協会 代表理事

筑波大学第三学群基礎工学類卒業。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修士課程修了(MBA)。2006年、サイトM&A専門仲介事業『サイトレード』を立ち上げる。2017年、第11回M&Aフォーラム賞 選考委員会特別賞を受賞。著書『M&Aエグジットで連続起業家(シリアルアントレプレナー)になる