サイト売買コラム

  • 売り手目線

眠る資産を現金化 — 個人ブログの価値再発見とサイト売却の流れ

取材協力者:矢野理人さん(サイト売却者)

「このまま放置するのはもったいない」

ブログを運営し始めたころは毎日アクセス数が伸びて楽しかったのですが、この1年間はのアクセス数がずっと減少したままでサイトの将来に不安を感じていました。私が副業として約3年間運営してきた転職アフィリエイトブログが月10〜15万円ほどの収益を安定して生み出すようになっていましたが、本業の仕事量が増え、更新頻度が落ちていたのが要因です。

そんな時、SNSを眺めていると、あるXの投稿が目に飛び込んできました。

「運営していたサイトを売却しました。3年間の努力を現金化しました。」

その言葉に、私は衝撃を受けました。「サイトを売る」という選択肢が、それまで頭になかったのです。私はすぐに調べ始め、サイト売買というマーケットが意外と活発に動いていることを知りました。

「誰かにこのブログを引き継いでもらえないだろうか」―その思いが、初めてのサイト売買へと私を導いたのです。

サイト売買を決意するまで

転職希望者向けのノウハウを発信してきた私のブログは、コツコツと更新を続けた結果、SEO対策で評価も順位も上がり、アフィリエイトで収益が見込めるサイトに成長していました。主なコンテンツは業界別の転職ガイドや面接対策、転職エージェント比較などで、それぞれの記事から転職関連サービスへの登録導線を設計していました。

しかし本業のプロジェクトが立て続けに舞い込み、更新頻度が大幅に低下。Googleのアルゴリズム変動も頻繁に起き、「このまま手が回らない状態が続けば、せっかく続けてきた副業が目減りしていく」という焦りがありました。

同時に、自分のキャリアについても考える時期に来ていました。本業での専門性を高める機会が増え、副業として抱えていたサイト運営に割ける時間とエネルギーが限られてきたのです。「この状況を打開する方法はないか」と模索する中で、サイト売買という選択肢に出会いました。

初めてのサイト売買、不安と期待

「自分のブログにどれほどの価値があるのだろう?」

 「どのようにサイト売買を進めれば良いのだろう?」

初めての経験に不安を感じながら、いくつかのサイト売買プラットフォームを調べた結果、「サイトレード」というサービスを利用することにしました。まずは無料査定を依頼してみることに。

そうするとすぐに、和家さんという担当者から連絡がありました。

「矢野さんのサイトは専門性が高く、コンバージョン導線がしっかりしていますね。収益は少し下がり気味ですが、ドメインパワーもあり、良い価格で売れると思います」

和家さんからの第一印象の評価は、私の予想を上回るものでした。当初、50万円程度の価値があればいいなと思っていましたが、和家さんの見立てではそれを大きく上回る可能性があるとのこと。正直なところ驚きました。

サイト売買の流れ

査定後、いよいよ売却のプロセスが始まりました。サイトレードでは、売却用の資料作成から買い手とのやり取りまで、丁寧にサポートしてくれます。

まず取り組んだのが売却用の紹介文章と資料の準備です。サイトレードからは、どのような情報をまとめれば良いかという分かりやすいテンプレートが提供され、私は以下の情報を整理しました。

・サイトの概要と運営歴

・過去1年間のアクセス推移データ

・収益内訳とその推移

・記事の構成と更新頻度

・使用しているキーワード戦略

「買い手はどのような情報を知りたいと思うのか」という視点で準備することで、サイトの価値をより明確に伝えられる資料ができあがりました。

和家さんは丁寧に私の資料をチェックし、「このサイトの強みはコンテンツの専門性と、転職エージェント登録への導線設計にありますね。その点をもう少し強調してみましょう」とアドバイスしてくれました。

買い手とのマッチング

サイトの情報が公開されてから約2週間後、最初の問い合わせがありました。興味を持ってくれたのは、人材関連のスタートアップ企業だったのです。

「矢野さんのサイトに興味を持っていただいた企業様は、すでに転職支援サービスを展開されていて、コンテンツマーケティングを強化したいとのことです」

和家さんからの連絡で、買い手の意図や背景を知ることができました。この企業は自社の転職サービスの認知拡大と登録者増加のために、すでに評価が確立されたブログを取得したいと考えていたのです。

その後、価格交渉と細かい条件のすり合わせが行われました。最終的な売却金額は、私が当初予想していた金額の3倍以上という驚きの結果に。思った以上の評価に嬉しさを感じると同時に、「このサイトが次の運営者のもとで活躍する」という期待も膨らみました。

売却後の変化と成果

契約完了から約1ヶ月後、買い手企業の担当者さんから嬉しい連絡がありました。

「矢野さんのブログを購入させていただいてから、コンテンツの一部をリニューアルし、自社サービスへの導線を整備したところ、求職者登録が月間150件ほど増加しました。当初の予想を上回る成果が出ており、投資に見合う価値を十分に感じています。ありがとうございます」

自分が育てたサイトが、新しいオーナーのもとでさらに価値を生み出していることを知り、大きな達成感を味わいました。

私自身も売却資金を活用して、資格取得のためのオンラインスクールの受講費用に充てることができました。副業として始めたブログが、次のキャリアステップを大きく支える資金となったのです。

得た教訓と気づき

この経験を通して、最も大きな学びは「自分では価値が下がったと感じていたサイトでも、買い手にとっては大きな価値になりうる」ということでした。

私にとっては「更新が追いつかず、少しずつ衰えていく資産」でしかなかったブログが、買い手にとっては「時間とコストを節約できる即戦力」だったのです。彼らは私が3年かけて構築したドメインパワーやコンテンツ、そして導線を、自社サービスに活かすリソースと明確な目的を持っていました。

また、サイト売買は単に「売る=終わり」ではなく、「価値を次につなぐ」ことなのだと実感しました。私の創り上げたコンテンツが、別の誰かのビジネスの一部となり、さらに多くの転職希望者の助けになる可能性があるのです。

これから売却を考える方へのアドバイス

サイト売買を検討されている方には、以下のアドバイスをお伝えしたいと思います。

まず、サイトの収益だけでなく、「どのようなユーザーに、どのような価値を提供しているか」という導線やターゲット設定の明確さも重要な評価ポイントになります。

また、最低限の運営履歴やアクセス推移、収益内訳などのデータは事前に整理しておくことで、査定や交渉がスムーズに進みます。私の場合は、和家さんのアドバイスで売却前に2年分のデータをエクセルにまとめたおかげで、スムーズに話が進みました。

そして何より、売却を「終わり」ではなく「バトンを渡す」という気持ちで臨むと、より納得感のある取引になります。

M&A担当の和家からの見た譲渡に込めた想い

矢野さんの案件は、個人ブログの潜在価値を最大限に引き出せた好例です。3年間の専門性のあるコンテンツと買い手企業の事業戦略が見事にマッチし、予想を遥かに超える評価につながりました。売却は『終わり』ではなく『次へのバトン』です。矢野さんのブログは新たな持ち主のもとで月150件の登録増という成果を生み、矢野さん自身も次のキャリアステップを踏み出された。これこそがサイト売買の本質『人と価値をつなぐプラットフォーム』としての役割だと実感しています。サイト売買という選択肢が、ウェブ資産の新たな可能性を広げているのです。

執筆著者 和家智也(わけともや)

執筆者: M&Aアドバイザー 和家 智也(わけ ともや)
株式会社ゼスタス 代表取締役/早稲田M&Aパートナーズ株式会社 代表取締役
一般社団法人日本サイトM&A協会 代表理事

筑波大学第三学群基礎工学類卒業。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修士課程修了(MBA)。2006年、サイトM&A専門仲介事業『サイトレード』を立ち上げる。2017年、第11回M&Aフォーラム賞 選考委員会特別賞を受賞。著書『M&Aエグジットで連続起業家(シリアルアントレプレナー)になる