サイト売買コラム
- 買い手目線
【体験談】事業の進化と深化を実現するサイトの承継
2024.12.13
取材協力者:鳴海健一さん(サイト購入者)
ゲームコミュニティサイトが拓く新たな道
私は、人気アニメゲームの関連グッズを販売するネットショップを運営しています。主な顧客はゲームを趣味とする20代から40代。売上は安定していましたが伸び悩みを感じており、新たな顧客層を開拓する必要性を感じていました。広告やSNSマーケティングでの集客には限界があり、次の一手を模索していたときに目にしたのが、「位置情報ゲームのコミュニティサイト」の売却案件でした。そのサイトはスマホの位置情報を活用したゲームで、初心者から上級者まで幅広い層に向けたコンテンツを提供しており、かつては月間数百万PVを達成した実績がありました。情報の質やユーザー層の厚みを考えれば、単なるウェブサイトというよりも「未来のビジネスの土台」となる可能性を秘めていると感じました。このゲームコミュニティサイトを購入することで、単なる広告運用の延長線ではなく、「事業の進化」として活用し、新たなビジネスモデルを構築するチャンスと考えました。
運命的な出会いと挑戦
運命的だったのは、和家さんの仲介サイト「サイトレード」で偶然目にした売却情報でした。「こんなサイトが売りに出ているなんて!なんとしても欲しい!」と直感が走った瞬間を、今でも鮮明に覚えています。それは単なるゲームのコミュニティサイトではありませんでした。売り手であるYUMAさん(ハンドルネーム)が学生時代から情熱を注ぎ、ゲームユーザーたちのために築き上げた特別なサイトだったからです。サイトには、初心者向けのガイドやレアキャラの出現場所や確実にゲットする方法など、多岐にわたる情報が寄せられており、さらにユーザーが自由にレアキャラゲット情報を投稿できるコメント機能が、サイトを盛り上げる仕組みになっていました。
YUMAさんが作り上げたこのサイトは、単なる情報発信の場を超え、ユーザー同士がリアルタイムに日常のたわいもないネタを話し合うコミュニティとなっていました。このやり取りに触れるうち、サイトが持つ本質的な価値が私の心に強く響いてきました。
しかし、YUMAさんが社会人になり、サイトへ関与する時間とシステムの更新が減った影響でアクセス数が停滞している状況でした。私は、「これはもっと成長させる余地がある」そう思ったとき、自分の事業として新たにチャレンジしたい気持ちが芽生えました。この出会いを、ある種のご縁だと感じました。
初回面談と売り手の背景
和家さんの調整で、YUMAさんと初めてオンラインで対面した瞬間、彼がサイトに注いだ情熱が画面越しにも伝わってきました。20代半ばの彼は、大学生時代からこのサイトを運営しており、語り口は誠実そのもの。学生の頃に好きなゲームを多くの人と共有したいという思いからブログを立ち上げたのが始まりで、今やユーザー同士が交流できる立派なコミュニティに成長していました。彼は「このサイトは自分の分身のような存在」と語り、労力を惜しまず運営してきたかを話してくれました。特に、リアルタイム情報を求めるユーザーの期待に応えるために、システム機能の追加開発に時間と労力を費やしたかを聞いて、彼の真摯な姿勢に感銘を受けました。
しかし、社会人になり本業が忙しくなるにつれて、ユーザーが求める運営方法が難しくなり、次第にサイト運営への熱意を保つことが困難になったそうです。その一方で、彼は「サイトをこのまま放置するのではなく、次のステージに育ててくれる人に引き継ぎたい」と語り、売却を決断した経緯を正直に話してくれました。その情熱と思いに触れた私は、彼の想いを引き継ぎ、サイトを次の形へ進化させたいと使命感を強く感じました。
交渉と課題の克服
売却交渉は、想像以上に難航しました。深瀬さんは、自身の情熱を注ぎ込んだサイトに対する愛着から、高い価格を希望していました。「このサイトは僕の人生そのものです」という言葉には、深瀬さんの本気と切実さが込められていました。一方で私は、アクセス数の減少や更新頻度の低下といったリスクを考慮し、慎重に価格を提示しました。しかし、その価格が彼の期待を下回ってしまったとき、彼の顔に一瞬曇ったのを見て、心がざわつきました。
「彼の努力を軽んじてはいないだろうか」と感じた私は、自分の提示した条件を改めて見直しました。
そんな中で、仲介者の和家さんが双方を冷静に導いてくれました。たとえば、売却額を分割払いにする提案や、一定期間の売り手サポート契約を盛り込むことで、売り手の不安を軽減する案が示されました。この提案に彼の表情が少し和らいだのを見て、私もほっと胸を撫でおろしました。
また、深瀬さんの情熱を尊重するため、「サイトはあなたが育てた宝物。その価値を私が次に繋げたい」と素直な気持ちを伝えました。この言葉が伝わったのか、深瀬さんは最後に「このサイト、鳴海さんに任せたいです!」と笑顔を見せてくれました。こうして、互いの想いを重ねた交渉は終わり、契約が正式に成立しました。その瞬間、ただの取引ではなく、新しい未来へのバトンを受け取ったような感動が胸に広がりました。
サイト運営の開始と今後の展望
サイトを引き継いだとき、私は喜びと責任の重さを同時に感じました。「このサイトをもっとユーザーに役立つサイトに育てる」という使命感とともに、売り手の彼の情熱を無駄にしてはならないというプレッシャーもありました。まず着手したのは、古い情報の整理と新しい記事の作成でした。特にアクセス数が多かったカテゴリーから手をつけ、ユーザーが求める情報を分析しながら、初心者向けガイドや最新情報を掲載しました。
同時に、オンラインストアとの連携も強化しました。攻略記事内に関連商品のリンクを設置し、ユーザーが記事を読みながらグッズを購入できる仕組みを導入。初めてその仕組みで売上が上がったとき、私の目指していた「情報と商品の融合」が形になった瞬間に思わず声をあげました。
さらに、コミュニティ機能を強化するため、ユーザー投稿型コメントの特典制度を導入しました。「このサイトをみんなで作る場所にしたい」という思いを込めた施策で、ユーザー同士の交流が活性化し、サイトが生き返ったのを実感しました。
売り手から教わった「ユーザーに寄り添う姿勢」を心に刻みながら、新たにeスポーツ情報やレビュー記事も追加し、サイトの可能性を広げました。1年後、アクセス数が倍増し、売上も大幅に成長。買収前と比較して、オンラインストアの売上が20%増加するなど、確かな成果を上げることができました。
私はただの「買収」ではなく「価値の継承」を実現できたと胸を張ることができたと感じています。
M&A担当の和家からの見た譲渡に込めた想い
この案件に関わったとき、私は単なる「サイト売却」を超えた何かを感じていました。
20代後半の売り手、YUMAさんが学生時代から運営してきたこのサイトには、彼の青春そのものが詰まっていました。「このサイトは僕の分身です」と語るその目には、愛情と手放すことへの寂しさが浮かんでいました。一方、買い手の鳴海健一さんは、オンラインストアとゲームコミュニティサイトを組み合わせて新たなビジネスモデルを築こうとする情熱的な人でした。
交渉では、売り手の「努力が評価されないのでは」という不安と、買い手の「リスクに見合う価値があるか」という慎重さがぶつかり合う場面もありました。私は双方の想いに寄り添い、条件調整だけでなく、信頼関係を築く場を提供しました。特に、鳴海さんが「あなたの情熱を未来へ繋げていきたい」と語ったとき、YUMAさんの表情が和らぎ、この譲渡が成功する確信を持ちました。
執筆者: M&Aアドバイザー 和家 智也(わけ ともや)
株式会社ゼスタス 代表取締役/早稲田M&Aパートナーズ株式会社 代表取締役
一般社団法人日本サイトM&A協会 代表理事
筑波大学第三学群基礎工学類卒業。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修士課程修了(MBA)。2006年、サイトM&A専門仲介事業『サイトレード』を立ち上げる。2017年、第11回M&Aフォーラム賞 選考委員会特別賞を受賞。著書『M&Aエグジットで連続起業家(シリアルアントレプレナー)になる』
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