サイト売買コラム

  • 売り手目線

キャリアコンサルタント講座サイトを売却した実例|個人運営でもできたM&A体験談

取材協力者:吉川ユリさん(サイト売却者)

キャリアの転機と「学びを届ける側」への一歩

私は新卒から約10年間、大手企業で営業職として勤務してきました。女性ながらも責任あるポジションを任され、数字で成果を残し、後輩育成にも携わる充実したキャリアを歩んでいました。社内でも高く評価され、周囲から見れば順調そのものの道のりでした。

しかし、結婚、出産、育児を経験する中で、これまでの働き方に対する疑問が少しずつ芽生えるようになりました。 「このままのキャリアパスで良いのだろうか?」 「自分の人生設計に合った働き方は他にあるのではないか?」

この問いかけに答えを見つけるため、思い切って退職し、自分が本当に望むキャリアを模索することにしました。そんな時に出会ったのが「キャリアコンサルタント」という資格です。人の悩みや転機に寄り添い、支える仕事に強く惹かれました。育児と両立しながら勉強に励み、無事に資格を取得することができました。

資格取得の過程で私は、自分と同じようにキャリアに悩んでいたり、試験対策に苦労している方が多いことを知りました。「かつての自分のように、孤独に学ぶ人の支えになりたい」という思いから、自分の経験を活かして資格取得を目指す方々のためのオンライン講座を立ち上げることを決意したのです。

個人事業主にとっての新たな選択肢「Web事業M&A」

講座は、Zoomを活用した模擬面接や独自開発の論述対策教材、丁寧な添削フィードバックを中心に構成し、受講者一人ひとりと真摯に向き合うスタイルで運営していました。ほとんど宣伝はしていませんでしたが、講座の質と受講者への真摯な姿勢が評価され、口コミや紹介によって徐々に広がっていきました。

想像以上のスピードで受講者は増え、2年という短い期間で350名以上の方に受講いただくまでに成長しました。月商も安定して70万円前後を維持するようになり、「自分らしい働き方」を実現できたことに大きな充実感を覚えていました。

しかし、講座が大きくなるにつれて、新たな課題も見えてきました。教材のアップデートや面接練習の調整、受講者からの質問対応、SNS運用、事務作業など、一人で抱える業務量は増える一方でした。特に、受講者が増えれば増えるほど、質を落とさないためのきめ細かいケアにかかる時間も比例して増えていきました。

自由を求めて始めたはずの働き方に、逆に縛られているような感覚に陥るようになったのです。子どもの進学や家族のライフスタイルの変化も重なり、「このままでは近い将来、限界が来るのではないか。その前に、次の展開を考えるべきではないか」という思いが強くなっていきました。

はじめての「サイトM&A」という世界へ

そんな時に偶然知ったのが、「Web事業のM&A」という選択肢でした。個人で運営している小規模な講座サイトでも、価値を認めてくれる第三者に引き継いでもらえる可能性がある——当初はこの発想自体に驚きを隠せませんでした。

調べるうちに、近年では個人事業主によるウェブサービスの売買も増えており、「サイトM&A」という市場が確立されていることを知りました。それは単に「手放す」ということではなく、「想いを託す」選択肢なのだと気づいたのです。

自分が一人で築いてきた価値が、より多くの資源や経験を持つ誰かの手によって、もっと多くの人に届けられる。それは終わりではなく、新たな始まりになるのではないか——そう考えるようになりました。

とはいえ、不安も大きかったのです。 「本当に講座の理念を理解してくれる相手が見つかるのか?」 「受講者の方々への責任はどうなるのか?」 「この決断を後悔することはないのか?」

そうした葛藤を抱えながら、迷った末にM&A仲介会社に相談してみることにしました。

専門家との出会いが不安を希望に変えた瞬間

担当してくださったのが、サイトレードの和家さんという方でした。

初回のヒアリングでは、講座にかけた想いやこれまでの歩み、不安な気持ちもすべて正直にお話ししました。数字だけでは見えない”講座の魂”のようなものも、丁寧に聞いてくれました。和家さんは経営の数字面だけでなく、私の講座に込めた理念や受講者との関係性についても深く理解しようとしてくださいました。

「吉川さんの事業には、想いと価値があります。それをきちんと受け止めてくれる相手と、必ず出会えますよ」

そう言ってくださった和家さんの言葉に、私は初めて「安心して手放す未来」を具体的に想像することができました。これまで漠然と抱いていた不安が、少しずつ期待に変わっていくのを感じました。

交渉が始まってからも、和家さんは常に私の伴走者でいてくれました。

「価格だけでなく、あなたが本当に大切にしたいポイントはどこですか?」

「この条件なら、きっと吉川さんの想いも受け継げますよ」

迷いそうになるたびに、私の立場や気持ちを尊重してくださり、ただの”取引”ではなく”バトンの受け渡し”になるよう尽力してくださいました。こうした丁寧なサポートがなければ、きっと途中で挫折していたかもしれません。

理念が通じ合った“受け継ぐ人”との出会い

やがて、教育事業を展開する会社の代表・佐々木翔さんが講座に興味を持ってくださいました。

佐々木さんの会社は法人向け研修を軸にしながら、キャリア支援や資格教育の分野にも注力しており、「キャリアコンサルタント」はまさにこれから本格的に取り組みたい領域だったそうです。私の講座は彼らにとって、新たな領域への足がかりになる可能性を秘めていました。

Zoomで初めてお話した際、佐々木さんは講座内容や教材構成、サポート体制まで細部にわたって理解してくださっていました。「受講者のために誠実に運営されてきたことが伝わってきました」と評価してくださいました。

「吉川さんの講座には、画面越しでも人への誠意が伝わってくる。理念ごと、しっかり引き継がせていただきたいと思います」

この言葉に、私は心から「この方になら託せる」と思えました。譲渡の条件交渉では、金額面だけでなく、「現受講者へのサポート継続」「ブランドイメージの維持」など、様々な観点から話し合いを重ねました。和家さんの交渉サポートのおかげで、お互いが納得できる形で合意に至ることができたのです。

譲渡完了の日に感じたこと

譲渡契約が締結されたその日、パソコンを閉じたあと、静かに涙がこぼれました。自分が一人で積み上げてきた講座。そこには、努力や迷い、そして受講者の成長と笑顔もすべて詰まっていました。寂しさ、感謝、誇り、そして「誰かに受け継がれる喜び」。いろんな感情が静かに胸に流れ込みました。

講座は引き続きブランドを維持したまま、佐々木さんの会社チームによって体制強化されることになりました。講師の増員やサポートシステムの改善など、私一人では実現できなかった発展計画も動き出しています。「自分の手を離れても、この講座はもっと広く、もっと力強く成長していく」という思いが、何よりの救いであり、希望となりました。

譲渡から半年が経った今、講座の受講者数は1.5倍に増え、サポート内容も充実したと聞いています。時々、佐々木さんから近況報告のメールをいただくのが、密かな楽しみになっています。

M&A担当・和家からの見た譲渡に込めた想い

吉川さんの講座は、単なる資格対策ではなく、“人生の選択に寄り添う学び”でした。

その根底にあるのは「誰かの不安を、学びによって希望に変えたい」という強い想い。数字には現れにくいこの価値を、丁寧に汲み取ってくださる買い手と繋ぐことが、私の使命でした。近年、個人事業主によるWeb事業のM&Aは増加傾向にあります。しかし多くの方が、自分の小さな事業に価値があるのか、誰かに引き継ぐ意味があるのかと悩まれています。吉川さんのケースは、理念の継承を大切にした良い事例になりました。

事業譲渡には迷いも伴います。でも、それは終わりではなく、「次の人につなぐ始まり」です。講座の価値は、吉川さんひとりの手から、もっと多くの人へ広がっていく。そう信じています。

執筆著者 和家智也(わけともや)

執筆者: M&Aアドバイザー 和家 智也(わけ ともや)
株式会社ゼスタス 代表取締役/早稲田M&Aパートナーズ株式会社 代表取締役
一般社団法人日本サイトM&A協会 代表理事

筑波大学第三学群基礎工学類卒業。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修士課程修了(MBA)。2006年、サイトM&A専門仲介事業『サイトレード』を立ち上げる。2017年、第11回M&Aフォーラム賞 選考委員会特別賞を受賞。著書『M&Aエグジットで連続起業家(シリアルアントレプレナー)になる